親なきあとの金銭管理について、成年後見制度の利用をおすすめしてきました。
成年後見人は、財産管理と身上監護をおこなう役目を持ちます。
判断能力のない知的障害の子どもや、判断能力は合っても精神的に不安定で支援がないと生活できない精神障害のある子どもにとって、必要なサポート体制のひとつと言えますが、この成年後見制度を利用するにあたって、問題として声があがっている部分についてもあわせてご紹介します。
新聞などで、弁護士や司法書士などといった専門職の成年後見人による不正・横領といった記事を目にすることがあります。
中には被害額が数千万円に及ぶ事件もあり、「後見人は悪いことをする人」というイメージを抱いている人も少なからずいるのではないでしょうか。
2014年の後見人による横領金額は、過去最高の約56億7000万円でした。
そのうち1割が弁護士などの専門職による不正で、残りの9割が専門職以外、つまり家族や親族の後見人による不正がほとんどです。
ただし、後述による対策により、後見人の不正自体は減っていると言えます。
2014年の不正の金額から、2015年・2016年と、その額は大きく減りました。
また、専門職による不正は1割を切ったため、対策の効果は間違いなく出ていると言えます。
家族や親族による不正は、後見人制度のことをよく理解していないことで起きてしまったものも多いと思われます。
例えば、母親の後見人についた長男が、家族みんなで旅行に行ったり家のリフォームをする時などに、母親からも少しお金を出してもらおうとして軽い気持ちで財産の一部を使ったり、いずれ自分が相続するものだからと少しずつ借りているうちに使い込みの金額が増えてしまった場合など、これらはすべて不正となります。
最初から悪意を持っていなかったとしても、後見人としては不適合とみなされてしまうのです。
上記に対し、弁護士や司法書士などの専門職による横領は、制度のことをわかっておこなっている不正となります。
悪意を持っておこない、不正の金額も大きくなることが多いため、新聞記事などにも取り上げられやすいのです。
こういった不正に対し、家庭裁判所も不正を防止する対策を取っています。
これが『後見制度支援信託』と『後見監督人』です。
被後見人である本人がある程度の資産を持っている場合、その資産を信託銀行に預けて、後見人も家庭裁判所の許可がないとおろせないようにするものです。
資産を持っている人が対象のため、どちらかというと被後見人が高齢者の場合が多いようです。
後見監督人とは、文字どおり後見人の業務を監督する役割の人で、選任するかどうかは家庭裁判所の判断によります。
家族や親族による不正行為が全体のほぼ9割を占めているため、親族後見人の場合は後見監督人が選任されることが多いようです。
後見監督人には弁護士や司法書士など、第三者の専門職が指名されるため、被後見人である本人の収入から相応の報酬を支払う必要が出てきます。
本人の財産などの権利擁護を目的とするもので、いたしかたない出費ではありますが、年金収入のみでやりくりしている人たちにとってこの出費は痛いという不満の声が多く出ています。
障害を持つ子の親御さんは、成年後見制度についての関心が非常に高く、よく勉強もされています。
ただし、講演会や相談の場でお会いする方たちの中で、実際に子どもに後見人をつけたという人は、まだあまり多くはありません。
それどころか、「障害のある子に成年後見制度は向いていない」とおっしゃる方も多くいらっしゃいます。
その最大の理由は、高齢者と違い年齢が若い障害者の場合、後見が長期間に及ぶ可能性が高いということでしょう。
成年後見人をつける際、親が後見人になっても、高齢になるにつれ健康を損なったり、判断力が衰えるなどしてきますので、どこかのタイミングで別の人を後見人に立てる必要が出てきます。
その際、後見人をきょうだいなどの家族に頼む、あるいは専門職に依頼する、親と専門職の二人で後見人になるなど、やり方はいろいろあります。
ただ、ほとんどの親御さんは自分たちが元気なうちは、まだしばらくは何とかなるので、まだ後見は必要ないと考えていらっしゃる方がほとんどです。
それも、成年後見制度はお試しの利用が出来なかったり、途中でやめることは出来ない性質のためとも言えます。
例えば、現在25歳の知的障害のあるお子さんの権利擁護のために成年後見制度を利用することにしたとします。
最初は父親が後見人に就任しましたが、年をとってきて体も頭も衰えてきたので、このまま成年後見人の業務を続けるのは厳しいと思い、後見人はやめることにしました。
ただ、自分が後見人をやめたあと、ほかに後見人を頼める適当な人が周りにいないから子どもの後見制度を終わりにしたいと思っても、それはまず無理と言えます。
例外として、精神障害で症状が回復した場合などは、一度始めた成年後見制度について、取消請求ができることもあります。
親が後見人をやめたあとに後見人になる人については、身近に頼む人がいない場合には家庭裁判所に選任をお願いすることになります。
この際、裁判所は責任をもって実績のある専門職を指名しますが、子どもの将来を託す相手がどんな人なのかわからないという不安は残ります。
後見制度を利用するにあたって、大きな問題のひとつとなっているのが、やはり後見にかかわる費用です。
専門職が就任した場合、長期間後見報酬を払わなくてはいけなくなり、障害基礎年金などけっして多くはない本人の収入がさらに少なくなってしまい困っている、という声も複数耳にします。
親族が後見人に就いて報酬はとらない場合でも、前述のように家庭裁判所から後見監督人が選任されて報酬の支払いが発生するという可能性もあります。
後見人に就いた場合の報酬は、額が決まっているわけではなく、家庭裁判所がケースに応じて決定しています。
例えば、東京家庭裁判所では、通常の後見業務をおこなった場合の後見人の報酬は月額2万円、後見監督人の報酬は1万円から2万円としていて、被後見人の財産管理額が高額だったり、特別困難な後見業務があった場合などはその報酬が増える、という目安をホームページ上で公開しています。
障害基礎年金のみ、あるいは働いていたとしても就労継続支援などの福祉的な就労による収入しかない人から見れば、やはりけっして少ない金額ではないと思います。
成年後見制度の利用について障害のある子の親御さんに聞かれたときには、高齢で健康にも不安があるというケース以外には「もうちょっと待ってみてもいいんじゃないでしょうか」とお答えすることが多くあります。
本人の権利擁護ももちろん大切ですが、障害者の親は、ほとんどの場合多くの心配や悩みをずっとかかえていて、精神的にきつい状態が続いているものです。
やはり真剣に考えなくてはいけない場面は必ず来ます。それは親が高齢になり、健康面、判断力の面で不安が出てきたときです。
子どもの面倒もそれまでのようには見られなくなってきますし、近い将来に相続の問題も出てくるでしょう。
遺産相続自体は後見人がいなくても出来ますが、障害者本人の口座に遺産が入ったとき、誰がこれを管理して、本人のために使うのか、という問題が起きてきます。
その時のために、今すぐ後見人をつける必要はなくても、自分たち家族にとって将来後見制度は必要か、そのときには誰をどんな形で後見人に立てるべきか、ということをぜひ家族で話し合っておいていただきたいと思います。
また、成年後見制度の相談窓口がどこになるかも、ぜひ知っておいてください。
いざ必要になった時に慌てなくてすむように、前もって話が聞ける場所を確保しておいてほしいと思います。
どの自治体でも、社会福祉協議会などで成年後見センターを開設し、一般の相談に対応しています。
親の会などの障害者団体に所属していると、先輩の親御さんなどすでに成年後見制度を利用している人がいれば生の体験談も聞けるのではないでしょうか。
さらに、最近は障害者の親を中心に、NPOや一般社団法人を設立して、法人として後見活動をしていこうという団体も増えていますので、そういったところへ連絡を取っておくと、相談に乗ってもらえると思います。
「自分の死後、子どもは問題なく生きていくことが出来るのか」
そんな多くの親が抱く『親なきあと』への不安も、障害がある子の家族にとってはひときわ大きなものとなります。
『親なきあと』への準備として、何に対し、どんな準備をおこなえばいいのかわからない。
私たち『親なきあと』相談室では、こうした漠然とした悩みを抱えている状況を打破するため、お悩みに対する具体的な課題を明確にするお手伝いをさせていただきます。
まずは下記フォームよりご連絡ください。
ご相談お待ちしております。