障害のある子をもつ親が、具体的に何からはじめるかということについては、まずは親なきあとをシュミレーションしてみる、ということです。
親が重い病気にかかっていたり、認知症の兆しがあったり、経済的に逼迫しているといった、目前に危機が迫っている場合には、遺言や成年後見制度、生活保護の申請など、急いで手をうつ必要がありますが、そのような緊急の状況でなければ、今すぐにするべきことは特にないのではないかと思います。
ただし、早めに取り組んでほしいことはあるので、以下に紹介します。
「親なきあと」のことについて、家族で、できればお子さん本人も交えて話す機会を作ってください。
将来の生活の場をどうするのか、子どものお金の管理や日常の世話はどこの誰に頼むのか、成年後見や信託などの契約制度を利用するのであれば後見人や受託者は誰にお願いするのか、といったことを想定してみましょう。
ただし、子ども本人がその話しを聞いた時に親の死を想像して不安になり混乱してしまったり、精神的に不安的になってしまうおそれがあるようでしたら、無理に同席させる必要はありません。
いつまでも親がいるわけではない、あるいはひとりで暮らす日が来るんだということがなんとなく感じられるようになった時に、改めて話を始めてもかまいません。
将来、親と離れて暮らす日の準備として、短期入所(ショートステイ)を利用してみましょう。
子どもの体験としてたいせつなのはもちろん、親としても、子どもがいない生活に慣れておくことが必要です。
自分たちがいなくなったあとのために、自宅以外で生活する練習をさせておくことは子どもの将来のためになりますし、子どもがひとり暮らしを練習することは親の練習にもなります。
今すぐにやってほしいのが、ライフスタイルカルテ(通称「ラスカル」)の作成です。
子どもが支援を受けるために本人の必要な情報をまとめたもの、それが「ラスカル」です。
極端な話しにはなりますが、明日にでも親が事故で死んでしまうことも、絶対にないとは言い切れません。
子どもがひとりで残されたときには、行政などの支援者がサポートしてくれることになります。
そのときに、子どもに関する情報をこの「ラスカル」に記しておくことにより、支援する側が本人の特徴を理解しやすくなり、子ども自身の生活の安定にもつながります。
【必ず記入したいこと】
・氏名、住所などの基本情報
・持っている手帳
・本人のことを知る人たちの連絡先
・パニックやてんかんなど、リスクの高い医療情報
・かかりつけ医、利用している施設
【できれば記入しておきたいこと】
・1週間の生活スタイル
・食事、入浴、トイレ、着替えなどについて配慮してほしいこと
・好きなこと、苦手なこと
・コミュニケーションのとり方
・社会性、ルールの理解度、ほかの人とのかかわり方
・移動や外出時に配慮してほしいこと
・子どもの健康とその後の対応についての希望
・本人を支援する人たちの一覧
・親として支援者に伝えたいこと
【コピーなどを貼っておくといいもの】
・母子健康手帳(成育歴、定期健診、予防接種など)
・健康保険証
・療育手帳
・受給者証
・個別支援計画
・サービス等利用計画
・年金申請時の診断書
・生命保険、医療保険などの証書
上記のように、親が突然いなくなったときのために、子どもについて知っておいてほしいことをまとめておくのが「ラスカル」です。
それを読むことによって本人の支援に役立てたり、ほかの機関と連携しやすくなるような内容を項目別にまとめてみましょう。
また、このライフスタイルカルテの考え方を具体的に形にしたのが『親心の記憶®~支援者の方々へ』です。
本人の基本的な情報に加えて、突発的なトラブルが起きた時に本人を知っている人に相談するための連絡先、必要性の高い医療情報というように、支援者が本人を守るために優先度の高い情報から順番に並べています。
セミナーにて無料配布をおこなっているので、セミナー参加時にはぜひこちらをお持ち帰りいただき、作成にお役立ていただけたらと思います。
親なきあとの生活のために、押さえてほしい5つの項目があります。
1・定期的にお金の入る仕組みを用意する(年金、手当、信託など)
2・そのお金が子どもの生活に使われる仕組みを用意する(成年後見、日常生活自立支援事業など)
3・生活の場=住む場所を確保する
4・入院のリスクに備えて医療保険に加入する
5・困ったときに頼れるルートを確保する
これらができていれば、子どもの親なきあとの生活を地域に託すことができます。
「子どものためにいくらお金を貯めておけばいいんだろう」という心配をするよりも、親が元気なうちに、ぜひこれらの準備をしていただきたいと思います。
たとえここまでの準備が思うように行かないまま、親がいなくなることがあっても、本人や家族が地域の中で社会を接点を持ってさえいれば、子どもの世話はきっと周囲の方々が見てくれます。
親なきあと、本人をどのような形で支援していくにしても、可能であればチームで支える仕組みができると理想的です。
成年後見制度を利用するとしても、後見人が本人に関する重大な決定をする前に、本人にかかわる人たちと話し合う環境があれば、より安心です。
きょうだいが支援する場合でも、きょうだい一人にすべてを背負わせるのではなく、さまざまな支援機関や福祉担当者を巻き込んだ体制を整えることが、本人だけではなく支援者であるきょうだいにとってもたいへん心強いと思います。
地域の中でつながりをもつ、周囲を巻き込んでおく、本人を知る人を増やしておく。
こういった準備が、きっと将来本人のために役立つことでしょう。
『親なきあと相談室』では、メールや面談によって障害のある方のご家族からの悩みや不安を伝えていただき、質問にお応えしています。
親なきあとについては、具体的な質問だけでなく「将来の親なきあとが不安だ」「何から手を付けたらいいのかわからない」といった漠然とした悩みの場合では、どこに相談すればいいのかわからない、ということが多いのではないでしょうか。
まずはじめに相談できる場所があれば、不安が大きくなる前に課題が「見える化」できて、次に何をすればいいのかがわかるようになります。
漠然と不安だけれど、何から手を付けたらいいのかわからないという場合は、困っていることを言葉にして伝えていくことで課題が少しずつ明確になり、次のステップに進めます。
また、具体的な相談の場合は、実は自分でもある程度の結論が出ていて、話すことで背中を押してもらい考えていたことを実行に移せるという効果もあります。
障害に対する身内などの無理解のつらさなどといった思いを吐き出したことで、少しスッキリした、またがんばろうと思えたと言っていただけることもありました。
相談された方が共通して言われるのは「困ったときや悩んだとき、相談できる場所があると心強い」ということ。
早い段階から不安を話すことで、親御さんそれぞれが本当に切迫した状態になる前に、準備が必要なことを知り、準備する状況をつくることができるようになります。
親なきあとの不安や悩みをなくなることはありません。
これで解決、という日はこないでしょう。
それでも、ここまで紹介してきたように、障害者をとりまく環境は変わってきていますし、選択肢も増えてきています。
・社会と接点を持つ=子どものことを話せる相手を見つけておく
・状況はよくなっている、と気軽にかまえる
・最低限の準備はしておく
・いざとなったらなんとかなる!
これらをふまえ『親なきあと相談室』やセミナーなどを利用しながら、親であるあなただけではなく、ご家族、きょうだい、地域の方や支援者の方々と共に、親なきあとの準備を進めていただければ、と思います。
「自分の死後、子どもは問題なく生きていくことが出来るのか」
そんな多くの親が抱く『親なきあと』への不安も、障害がある子の家族にとってはひときわ大きなものとなります。
『親なきあと』への準備として、何に対し、どんな準備をおこなえばいいのかわからない。
私たち『親なきあと』相談室では、こうした漠然とした悩みを抱えている状況を打破するため、お悩みに対する具体的な課題を明確にするお手伝いをさせていただきます。
まずは下記フォームよりご連絡ください。
ご相談お待ちしております。