「子どもには出来る限り財産を残してあげたいけれど、残したお金を子ども本人がちゃんと管理できるのか不安で……」
親なきあと相談室には、そんな相談が多く寄せられます。
障害のある子が遺産を相続したあと、どういった形でその遺産を管理していけばいいかというのは、親なきあとを考える際の、大きな問題のひとつではないでしょうか。
せっかく相続した財産を短期間で使ってしまったり、悪い人に騙し取られてしまったりしないようにするには、信託制度利用の検討がおすすめです。
信託とは文字通り、財産を信頼する人に託することです。
障害のある子に対してこの制度を利用すると、大きなお金を本人が一度に使えないよう、必要な金額だけを必要なタイミングで渡すことができます。
自分でお金の管理ができないという子どもならば、成年後見制度などの利用が考えられます。
精神障害や軽度の知的障害を持つお子様など、本人にそれなりの判断能力があるケースでは、まとまったお金が手に入ればそれを使いたいという欲求も当然ながら出てくることでしょう。
そんな人を狙って、悪意のある人がだまし取ろうとする可能性もあります。
このように、いきなり多額のお金を使ってしまわないための仕組みが『福祉型信託』と呼ばれる制度です。
明確に定義付けられた言葉ではありませんが、高齢者や障害者のために信託を設定することを福祉型信託と呼んでいます。
2007年に信託法という法律が改正・施行され、営利目的でなければ一般の法人や個人のあいだでも信託の仕組みを使えるようになりました。
信託によって可能になることで、障害者の家族に注目されている機能は主に2つです。
1つ目は、信託した財産は子どもが必要な時に必要な分だけ給付してもらえることです。
2つ目は、子どもが亡くなったあとにまだ財産が残っていたら、そのお金を寄付する先も信託契約で決めることができるということです。
例えば、母ひとり子ひとりの家族がいたとします。
子どもは軽度の知的障害者で、母親には資産は3000万円あります。
母親が亡くなればこの資産は子どもが相続しますが、多額のお金をいきなり本人が手にしてしまうことを母親は心配しています。
そんな場合に、信託の仕組みが力を発揮します。
まず、母親は元気なうちに自分の資産について信託契約を結びます。
信託銀行と結ぶ場合は、相応の管理料や手数料がかかりますが、契約は一個人との契約も可能なので、親族の中から選ぶこともできます。
ここでは、信頼できる甥がいるということで、この甥と契約を結ぶことになりました。
この時の甥は契約上『受託者』と呼ばれます。
それに対して資産を託した母親は『委託者』になります。
この契約を結べば、母親の3000万円は信託財産となり、母親の手を離れて所有者は甥に移ります。
甥は信託財産の所有権はありますが、信託財産は独立した存在となるため、自由に財産を処分することはできず、管理する権限を持つことになります。
母親が元気な間は、甥は責任をもって財産を管理します。
信託契約で預けた財産は、受託者の財産とは分別して管理されます。
そのため、万が一受託者が破産等で財産を失うといった場合でも、信託契約の財産は別途保護されることになっています。
契約時には『受益者』といって、信託財産から利益を受けられる人もあわせて決めておきます。
今回の場合は、障害のある子が受益者となります。
母親が亡くなると、信託した3000万円を相続するのはあくまで受益者である障害を持つ子どもとなります。
しかし管理処分する権限は引き続き甥が持っているため、甥は子どもに対して、母親の財産の中から契約で決められたとおり、必要な時期に必要な額を給付していきます。
たとえば、生活に必要な額を毎月10万円と決め、この額を毎月子どもに渡していく形にすれば、障害を持つ子が多額のお金を使ってしまったり、誰かに騙されたりそそのかされたりして大金を渡してしまうという事態を防ぐことができます。
やがてこの受益者である子どもも亡くなりましたが、母親の財産はまだ残っています。
この場合、子どもがひとりっ子で配偶者や子も持たず、相続人がいなければ、相続人がいない状態となり残ったお金は国庫、すなわち国の金庫に入ります。
もしも母親が、最終的にお金が残った場合、せっかくならお世話になった施設を運営している法人に寄付したいと考えていたら、それを信託契約の中であらかじめ決めておくことができますし、信託財産の管理をしてくれた甥にわたすということを決めておくこともできます。
信託契約は、信託契約を結ぶ受託者を信じて託す契約となります。
ただし、このような信託契約を結んだからといって、ほんとうにお金が定期的に子どもに渡されるのか、その保証はあるのか、という不安はありますよね。
受託者が確実に契約を実行してくれれば問題はありませんが、あくまで私的な契約のため、反故にされてしまえば、誰もその管理をチェックしてくれずに子どもは困ってしまいます。
信託銀行や信託会社などに委託した場合は会社の信用があるため不正の心配はまずないでしょうが、頼んだ相手が兄弟姉妹や甥といった身内、信頼できる第三者などといった個人だと、信じて託したけれど不安は残るという場合もあるかと思います。
それを防ぐため、『信託監督人』という制度があります。
信託監督人は、障害のある人が受益者になる場合のように、利益を受ける人がお金を給付してくれる受託者をじゅうぶんに管理出来ない時、その利益を守るために、受益者のいっさいの権利を行使する立場の人です。
この信託監督人も、信託契約の中で設定します。税理士などの専門家が就くことが多く、費用もかかります。
ただし、信託監督人をつける際には少し注意が必要です。
信じて託した以上、あとはすべて任せるという形にしないと、任された受託者側としては「自分は信用されていないのか」と感じてしまうかもしれません。
そうなれば、その後の受託者としての責務を真剣に果たさなくなるというおそれもあるため、信託監督人を置くかどうかは、慎重に考える必要があります。
信託には決まった契約形式があるわけではなく、それぞれの事例に応じた契約が必要です。
成年後見制度、任意後見契約、遺言などを組み合わせた信託契約により、トータルで受益者の生活を守ることが必要となります。
「自分の死後、子どもは問題なく生きていくことが出来るのか」
そんな多くの親が抱く『親なきあと』への不安も、障害がある子の家族にとってはひときわ大きなものとなります。
『親なきあと』への準備として、何に対し、どんな準備をおこなえばいいのかわからない。
私たち『親なきあと』相談室では、こうした漠然とした悩みを抱えている状況を打破するため、お悩みに対する具体的な課題を明確にするお手伝いをさせていただきます。
まずは下記フォームよりご連絡ください。
ご相談お待ちしております。